教室の戸を開けたら、そこには

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 僕が落としたノートとペンを拾いながら『気づいていたんですか?』と愛奈さんに言った。  愛奈さんは、僕の言葉を聞いてから、こちらの方に向き直った。 『当たり前でしょ?描いてる音が聞こえてこないんだから』  僕は、愛奈さんの絵を描き終わったあと、ペンを浮かせて描くふりをしていたため、簡単に見破られたようだった。  自分の浅はかな嘘を上塗りするように僕は、言った。 『綺麗だったから』 『また、その言葉つかうんだ。君は、ずるいね』愛奈さんは、そう言って僕に近づいてから、描き終わった絵を覗き込むようにして見ている。顔が近い。愛奈さんから、漂ってくる良い香りにあてられて僕の頭は、熱がおびたように熱くなっていた。 『あの』  愛奈さんは、僕の絵を眺めてから、『ん?』と小さな声で呟いた。 『僕の絵。上手く描けてますか?』 『うーん。もう少しかな』  その言葉に肩を落とした僕を見て愛奈さんが慰めるようにして言った。 『これから、上手くなっていけばいいんだよ』そう言ってから、僕の肩を優しく叩いた。  僕から離れていこうとする愛奈さんを引き止めるようにして僕は、『来年もまた、僕に横顔を描かせてくれますか?』と呟くように言った。 『どうだろう。もう、ここに来ることは、ないと思うから』  その瞬間、僕の頭の中が真っ白になっていく気がした。  愛奈さんは、僕の顔を見ないようにして後ろを向いている。何度か考えを巡らせてみたものの良い答えが見つからない。ついに僕の口からでたのは、簡単な言葉だった。 『な、なんでですか?』  愛奈さんは、後ろを向いたまま何も答えない。この恋が実らないことは、僕自身が一番よく理解していたつもりだった。  けれど、愛奈さんへの気持ちは、もう押さえきれない状態に陥っていたことを理解できていなかった。  僕は、苛立ちを剥き出しにして『なにも言うことは、ないってことですか?』と大きな声で言った。  愛奈さんは、黙ったまま振り返ってくれない。僕の愛情は、裏返したような歪な言葉に変わった。 『嫌いです…あなたなんか…あなたなんか大嫌いだ!』  僕は、自分で言ってしまった言葉の意味を理解した。  気づいた時にはもう教室の戸を開けていて僕は、廊下を走っていた。
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