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教室の戸を開けたら、そこには僕の方へ背を向けて独りで佇む女性が、教室の窓から外の景色を眺めていた。
その後ろ姿を見ていると女性にある独特の色っぽさが感じられる。とても中学生には、見えない。
誰だろう。そう思いながら自分の席がある場所に、恐る恐る距離をつめていった。
ちょうど、僕の席の辺りに女性が立っていたので、横顔だけでも見たいと思った。机の中にあるプリント用紙を鞄にしまってから、少しだけ視線を窓側の方へ向けた。
女性の横顔は、とても綺麗で僕には、理解ができない悩みを抱えているんだろうか、と考えてしまう。朱色の光が注がれている教室の中で、その女性の綺麗な横顔が、よりいっそう際(きわ)だって見えた。
女性が漂わせている不思議な雰囲気に僕は、初めて絵を描きたいと思った。写真じゃない、動画でもない、僕の手でこの風景とこの女性を描いてみたい。そう感じさせるほどの美しさが、この教室の中を漂っているように思えた。
何分ぐらい見つめていただろう。視線に耐えかねた彼女は、僕の方に顔を向けてから言った。
『見すぎだから、やめて』彼女の発したその一言は、僕の心に深く突き刺さった。
僕は、その場で泣き崩れた。『どうしたの?なんで泣くの?』と彼女は、僕の背中をさすりながら言っている。
『綺麗だったから、綺麗だったから』嗚咽のまじった僕の言葉に彼女は、戸惑っている。涙でぼやけた視界の先に映る彼女の姿を見て、僕の心は申し訳ない気持ちでいっぱいだった。
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