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しばらくして涙も枯れてきた頃に僕は、ようやく謝罪の言葉が言えるまでに回復していた。
『びっくりしたのもあって。あの、そのごめんなさい』と言って僕が謝ると彼女は、言った。
『うん。私の方こそごめんね。傷つけようとして言ったんじゃないの。ただ、あまりにも見られていたから』
緊張して言いたいことがうまくまとまらない。彼女の言葉にどう返して良いか、わからなくなって何も言えなくなった。
そんな、僕を見かねた彼女は、『自己紹介しようよ』と言って僕の頭を優しくなでてくれた。
『私から自己紹介するね。私の名前は小波 愛奈(さざなみ あいな)です。えーと、20です』
照れ笑いをして自己紹介をする愛奈さんの顔は、横を向いていたときの表情と違っていた。
可愛いという表現が似つかわしい。無邪気さを感じさせる笑顔だった。
『僕の名前は、真鍋 俊太(まなべ しゅんた)です。13歳です。よろしくお願いします』
僕は、そう言ってから頭を下げた。互いに両膝をついて床に座っていたので、テレビドラマのワンシーンを思い出した。
向かい合ってお見合いをする男女が、座布団に正座をして恥ずかしそうにしながらハンカチで額の汗をふく。そんなワンシーンだったのだが、正座をしていること以外に今の状況と合致する点は、見当たらなかった。
ハンカチぐらいは、持っていれば格好がついたのかもしれない。そう、思ってみたが、泣いた時点で格好もなにもなかったことに気づいた。
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