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暗くなった路地を歩きながら、僕は、愛奈さんのことを考えていた。愛奈さんは、なんであの教室にいたんだろうか。まだ、教室に残っているんだろうか。あの教室を去ってから疑問だけが僕の頭の中で渦を巻いていた。
けれど、考えたところでなにも変わらない。来年になったら、愛奈さんに聞けば良いじゃないか。そう思って僕は、前向きになることを理由にして考えるのをやめた。
僕は、気持ちを切り替えるために、とりあえず家に帰ったら、父さんと母さんに僕の名前の意味を聞いてみようと思った。
家に着いてから、自分の部屋に鞄を置いて、洗面所で手を洗ってから、リビングに向かった。リビングにつづいている扉を開くとテーブルに置かれた肴(さかな)を箸でつまみながら、父さんが言った。
『おかえり。忘れ物を取ってくるだけなのにずいぶん遅いんだな』
リビングに掛けられている時計を見ると短い針は、七時を指している。僕は、教室で偶然出会った愛奈さんの話をした。父さんは、ビールの入ったグラスを口につけてから、『へぇー』と言って僕を羨ましがった。
『良かったな。綺麗なお姉さんと喋れて。俺なんか、お店に行ってお金を払わないと喋れないんだぞ』
母さんは、台所で晩御飯の準備をしながら、僕と父さんの話を聞いていたようだった。
『最近は、行ったの?そういうお店に』母さんは、そう言っておかずの入った皿をテーブルに並べている。その仕草がいつもより丁寧に見えた。
『いや、別に最近は、行っていないよ。結婚する前の話だから』
慌てて否定する父さんを見て母さんは、何かを察したのかもしれない。僕の方に顔を向けて『洗面所に行って手を洗ってきなさい』と言った。僕は、リビングへ入る前に手を洗面所で洗っている。僕は、母さんに反論しようとしたが、やめた。
父さんが僕を見ながら、首を横に振っている。僕は、その姿を見て仕方なくリビングを出た。リビングから追い出された僕は、リビングの扉に近い位置に立ってその場で待つことにした。
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