教室の戸を開けたら、今が"おはよう"だったかを悩んだ。

5/5
前へ
/5ページ
次へ
お姫様は一粒の宝石にも勝る輝きを、ほろりとこぼした。それを、見るからに白く滑らかな布に包まれた指先で拭うと、隣の部屋の遠くへ視線を飛ばした。 するとどうだろう、見る間に表情が変わっていくではないか。 「ですから今、この国には……あっ!……えっ!?……まぁっ!」 もちろというかなんというか、こちらは何もしていない。お姫様の百面相に見とれていると、ドレスの裾を摘まんで隣の部屋に入っていった。どうやら窓があるらしい。 「あぁ……今、現れました……私達の救いが……!この国に平和が戻りました!まぁ、あそこで老人が救い出されている!あちらでは離ればなれになっていた恋人が抱きしめあっている!……もうこの国に不安はありません!この国は救われました!」 お姫様はとても嬉しそうに笑う。この国の民に笑顔が戻ったことを心から喜んでいる。 おわかり頂けただろうか。今、目の前で一国一城が危機にさらされ、そして救われたのだ。 もちろん、こちらは何もしていない。 ……何もしていないっ! そっと扉を閉じて祈ろう。 ほんの少し垣間見ただけのこの世界が、これからも平和でありますように。
/5ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加