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* * *
「ようやくくたばったか化物が」
男が見下ろす先には脚を砕かれ、腕を失い、その背に数えきれない矢を受けた小さな少女の姿があった。
「何が勇者だ!こいつらさえ来なければっ…!」
嗚咽を漏らす青年にローブ姿の男が優しく声をかける。
「もう大丈夫。世界の脅威は除かれました。あなたの奥方様もきっと喜んでおられる」
震える青年の背をさすりながら、フードの下では隠しきれない笑みを浮かべる。
「けっなんだって幸せそうな顔してやがんだ!ふざけんじゃねぇ!」
剣を持った男が苛立った様子で少女の亡骸を足蹴にする。
その様はローブの男にとって喜劇と言うしかなかった。
湧き出る笑いを堪えるのに身体が勝手に震えてしまう。
「司教様…」
その様子を嘆いていると勘違いした連中が気遣わしげな声をあげる。
司教は暗い洞窟の中で声を響かせる。
「皆よくやってくれた!かつて勇者と呼ばれた魔王は死んだ!我々の世界は守られた!」
歓喜に沸く男たちの声は少女には聞こえない。
これから起こるであろう大規模な戦争に胸を痛めることもない。
かつて勇者と呼ばれ、魔王に仕立て上げられた少女の、幸せな夢。
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