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(どうして…?)
私はこめかみに手を当てて直前の記憶を探る。
(確か…そう、逃げていたはずだ。追い詰められて、それで…)
湿った空気に鼻につく臭気。
暗がりの中で冷たい壁に手をつきながら、無理矢理に足を動かして逃げる、逃げる。
それに、嘲笑。
口々に浴びせられる言葉は私を貶め、罵るためのもの。
けれど、何故だろう。
いやらしく吊り上げた口で喚き立てているのに、言葉は何一つ思い出せない。
「ねぇ、どうしたの?」
いつの間に戻って来たのか、ポニーテールを揺らしながら首を傾げる友人が目の前にいた。
途端、彼女の長く明るい髪が赤黒く汚れている場面が浮かんだ。
私の腕の中で力を失くした身体が冷たくなっていく。
端正な彼女の顔は酷く汚れ、目は落ち窪み、およそ眼前の彼女だとは思えない有り様だった。
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