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だが、お前との結婚は前途多難すぎた。親父はお前と結婚するのなら、勘当する、ビタ一文もくれてやらないと言ったのだ。正直、俺は無能だ。就職も親父の経営する会社に就職するつもりだったし、勘当と言う事は、それもご破算ということだ。俺は文字通り、裸一貫でお前との暮らしを始めなければならないのだ。それを考えた俺の結論。
正直、面倒くさい。
これが俺の答えだ。
お前のことは好きだが、せっかく親が用意してくれた人生のレールを踏み外してわざわざ茨の道を歩くことを考えると、俺は辛くて仕方なくなった。
「さよなら、ミナコ。」
スローモーションのように、ミナコの体は岩の上でバウンドし、あらぬ方向に手足や首が曲がり、一瞬海を赤く染めた。今日のような時化た日は、誰もここには来ない。
ミナコの体はすぐに波がさらって行った。
ほっとした。
もう俺は悩まなくていいのだ。
ミナコの遺書は俺が彼女の部屋に用意しておいた。
元々、彼女は直筆でメモを残すタイプではなく、文書は全てパソコン、またはスマホに保存しているのだ。
捜索願が出され、無論、事件の可能性を考えて、彼女のパソコンは提出されるだろう。
常日頃より、彼女とメールをしているから、彼女の文章の癖など、すぐに真似できる。
ホテルに置いてきたあの女は今頃夢の中だろう。
シャンパンに睡眠薬を仕込んでおいたから。
あらかじめ調べておいた厨房裏口から俺はこっそりとホテルの部屋に戻り、寝ている女のベッドに潜り込んだ。
俺のアリバイは完璧だ。親父には、ミナコとはとっくに別れたと伝えてある。
数日後には、俺はこの隣で眠る許婚と結婚する。
それを知らないのは、ミナコだけだったのだ。
奇しくも、俺と許婚の結婚式の日に、ミナコは10キロも離れた海岸に打ち上げられた。
捨てられた女の自殺と、誰もが俺を疑わなかった。
1年後の夏、俺と妻は沖縄旅行に出掛けた。
新婚生活は、快適そのものだった。俺は予定通り、親父の会社に就職。将来は約束されている。
親から買ってもらった、マンションは一等地にあり、利便性に優れ、快適だった。
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