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クラゲ?
ミナコではなかったのか。
俺は自責の念から、ミナコの幻を見たのか。
俺は陸に上がると、すぐに病院に運ばれ事無きを得た。
妻からはさんざん叱られた。
だから調子に乗って沖へ行くなと言ったのにとさんざん罵られた。
「でも、助かって良かった。」
そう肩の上に小さな頭を乗せられると、俺は1年目にしてドキリとした。
俺は意外とこの女のことを愛しているのかもしれない。
あくる日、俺は刺された足も全く痛まず、もう泳ぐのは許してもらえないので、妻と手を繋ぎビーチを散歩した。
1年前、絶望的な愛と引き換えた物は、俺にとってかけがえの無い物になった。
この女と一生添い遂げよう。
「いたっ!」
ビーチを歩いていた俺の足に激痛が走った。
思わず、足を見ると、そこにはミナコが妙な形で横たわって、俺の足首を掴んでいた。
体はうつ伏せなのに、何故か首はこちらを向いていた。
笑った。ミナコが笑ったのだ。
「どうしたの?あなた。」
驚いた妻の顔が、かすんで来た。
意識が朦朧として、呼吸が苦しい。
ミナコに掴まれた足から氷のような冷たさが徐々に体を襲う。
倒れこんだ俺の横で妻が悲鳴をあげた。
「だ、誰か!救急車!」
妻がスマホで、救急に電話している声が遠くなって行った。
もう息をすることもままならない。
ミナコが俺の全てを飲み込んだ。
「だって、一人で死ぬなんて、いやだもの。」
「アナフィラキシーショックですね。」
妻はそう告げられた。
「蜂でよく知られてますが、毒クラゲでも、症例はあるんです。死に至るのは珍しいことですが。」
妻は、死んだ夫の横で泣き崩れていた。
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