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教室の戸を開けたら、そこには城があった。椅子と机で構築された、物々しいその城は冷たい威圧感を放ち、俺を圧倒してきた。
時間は昼のはずなのに、教室の中はこれが原因なんだろうが、薄暗闇になっている。
誰だよ、こんな悪戯をしたのは。
「どうして、あなたはここにいるの? 今日は土曜日よ?」
透き通った声が聞こえた。姿を視認はできないが、どうやらこの教室内に声の主はいるらしい。
「お前こそ、なんでいるんだよ。今日は日曜日なんだろ?」
この声に聞き覚えはあった。兎みたいに寂しがり屋で、リスみたいに小さいあいつに違いない。
「あなたはこの世界が不安定だと感じたことはない? いえ、別に世界でなくてもいいの。それは自分自身の存在だとか、青春だとかいう曖昧模糊とした事象や現象でもよくて、そういうものや、まるで眼鏡のフレームが外れるように、中にあったものがしっかりと固定されていないようなグラグラした違和感を覚えたことは?」
長い。くどい。半分ほども意味が理解できなかった。
「もう少しわかりやすくできないのか?」
あいつはひっそりと息を潜めた。考え込んでいるのだろう。どう返せばいいのかを。
授業中に当てられても、あいつは少しの間考え込む。それがなぜなのかはわからないが、どうせ、考えるのが趣味なんだろう。
「出てこないなら探すぞ」
この状態で月曜日を迎えるのも、それはそれで楽しそうだが、現実を考えると、これを放置する気にはなれなかった。面倒事は御免だ。
返事はないが、逃げようとしてぶつかったのか、机か椅子が鳴った。
「じゃあ、行くからな」
「あの、自分が本当に生きているかどうか、わからなくなったことはない? これで伝わらない?」
「なんとなくはわかる」
意味はわかるが、幸いにしてというか、あいつからすれば不幸なことに、俺はそんな感情を抱いたことがない。
手は握れば動くし、熱もあって脈拍も感じられる。自分が生きているか、ここにいるか、理由はそんなもので充分だろ。
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