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夢はいつも儚く消え去り、現実が心に突き刺さる。  痛みは取れるまでに時間が掛かり、傷になって残る。  その跡は時とともに深くなり、いつか夢を抱く神経を麻痺させるだろう。    鍵が掛かっていないのを確認して、俺は部屋のドアを開けた。 「お帰り。ライブどうだった?」 「普通。っていうか、いつもと一緒」 「ごめん、行けなくて。次は行くね」  ミカはそう言ってソファに座ったまま、俺からテレビに視線を戻した。 「仕事なら仕方ないよ」  俺はシャワーを浴びようとミカの後方で服を脱ぎながら、無意味な社交辞令を交わした。テレビを見ているミカの背中はいつみても愛らしく思う。 「ミカ」 「なに?」 「なんでもない」 そう言ってにやけていると、ミカは頬を膨らませてふくれっ面をする。テレビではカラフルな衣装を着たアイドルたちが、ひらひらのスカートを揺らして歌っている。なんでこいつらがテレビに出られて、俺らが出られないんだ。そんなことをちょっと前までいちいち思っていたが、近ごろはそう思わないようになった。とにかくこいつらはテレビに出て俺はそのテレビの前にいる。その現実は変えることはできないからだ。 「ダイのバンドってさー、みんなカッコイイから、裸で歌えばいいんじゃない?」  明らかに冗談っぽかったので笑って同調して、汗で湿ったボクサーブリーフを脱いで素っ裸でエアギターを持ってポーズをとった。 「ミカ、こんな感じ?」 「そうそう。カッコイイよ」  振り向いたミカは両肩をあげて笑い、ちょっと照れた様にそう言った。シャワーを浴びることもせず、ソファをまたいでミカをぎゅっと抱きしめた。クーラーの効いたこの部屋は、八月の気だるい蒸し暑さを消す代わりに、前の部屋の住人の残していったタバコの臭いが充満していた。ミカの首筋に唇をつけると感じる香水の甘い匂いは、かすかに匂う汗と混ざり合って俺の興奮を高めていた。きっと相性がいい証拠だと勝手に思いながら服を脱がせ、俺は舌を下の方に這わしていった。  
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