0人が本棚に入れています
本棚に追加
「決まってるだろ」
勇者の聖力によって存在する不滅の剣をまっすぐに突き付けて、勇者は言う。
「お前を殺すためだ」
「そのことにどんな意味があるというのだ。もはやお前を希望とする人間もいないのに」
「それでもだ」
勇者はぶれない。
「俺は、お前を殺すために生まれ、お前を殺すために育てられ、お前を殺すために生きてきた。お前を殺すためだけの存在だ。今更それを否定出来るか。今更別の道を歩めるか。お前を殺さぬ限り、何も始まらないし、何も終わらない」
勇者はその眼に光をともして語る。あるいはその光は、狂気の光なのかもしれないが。存在意義を一つだけに縛られ、それ以外の道を見いだせない、悲しき光なのかもしれないが。
「お前だって、そうだろう。今更答えが分かっている答えを繰り返すな」
その言葉を聞き、魔王も笑い始める。
「……ああそうだな、無駄な問いだった。例え既に守るべき民が無くとも、我は魔族の王。貴様を倒さねば、あの世で民に顔向けできん」
魔王も暗黒の爪を構える。魔族の威信全てを乗せた、黒き鎌。それを撫で、とうに亡い家臣たちに、少しだけ思いを馳せる。
「下らんことで時間を喰った。勇者よ、それではまた殺し合おうか」
「そうだな。この世界の聖力と魔力、どちらかが尽きるまで、ともに殺し合おう」
そうして魔王と勇者は激突する。それは幾度となく繰り返されたやり取り。己の存在意義を確認するだけの作業。互いを殺し合う死闘の中でしか生きることの出来ない両者は、永劫の時間の中、死の乱舞を踊り続ける。
絡み合う二つの悲しき魂をよそに、時間だけがいつまでも、終わることなく流れ続けた。
(完)
最初のコメントを投稿しよう!