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古城であった。
そこは大きな広間で、壁には見るからに異様な、おぞましき彫刻が施されていた。隅は埃に占拠され薄汚れ、いかにもうら淋しい印象を容赦なく伝えてくる。
その中心で、二つの影が熾烈な戦いを繰り広げていた。
一方は煌めく白銀の鎧に身を包み、光を放つ長剣を振るう金髪の若者。もう一方は闇の装束を身に纏い、自身の巨大な爪で戦う、角を生やした異形の者。
勇者と魔王であった。
光と闇、聖と魔。太古より続く両者の対立。この世界の理そのものを代表する二人の決戦の火蓋が切って落とされてから、既に相当な時間が経過していた。
クルクルと位置を入れ替えながら、勇者と魔王はまるでワルツでも踊るかのような戦闘を継続していた。その様は、見ようによっては優美でもあり、また凄惨でもあった。
「はぁっ!」
「そらっ!」
刃と爪がぶつかりあい、火花が散る。両者はともに飛びすさり、距離をとった。
「いい加減に死んだらどうだ、魔王よ!」
勇者が構えたまま声を掛ける。それに対し魔王は小さく鼻で笑い、言葉を返した。
「それはこちらの台詞だ、勇者よ! いい加減光の精とやらの下に向かったらどうだ!」
「貴様を殺すまでは、光の精の御許に向かうことは出来ない。魔王の抹殺こそが俺の使命、勇者である俺の生きる理由だからだ」
「それはこちらとて同じこと。魔を統べる王として、人間ごときに負けるわけにはいかぬ。今更答えが分かり切っている問いを繰り返すでない」
「ああ、そうだな。無駄な問いだった」
返答し、勇者は突撃する。その体は血で汚れきっており、戦闘の厳しさを知らせる。
対する魔王も血まみれであり、中には既に乾ききって剥がれかけている返り血もある。そのくすんだ赤色はこの決戦がいかに長く続いているかを如実に表していた。
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