沈まぬ太陽、明けぬ夜

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 飛びかかった勇者の剣が魔王に迫る。魔王はそれを咄嗟に硬化させた腕で受け止め、そのまま振り飛ばそうとした。それより早く腕を蹴ることで、宙を舞う勇者。空中での反転着地、再びの突撃。今度は下からの鋭い切り上げがその喉を狙う。  空を切裂き近づく刃を、魔王は最小限、首を傾けるだけでやり過ごした。がら空きになった勇者の胴体へ巨大な拳が進撃する。しかしその拳は目標に着弾する前に勇者の蹴りあげた脚によって軌道を逸らされた。ずれたせいで顔面に向かう拳をギリギリで避ける。風圧で頬から血が出るのにも構わず、勇者は渾身の剣戟を振り下ろした。刃が魔王の体を深く袈裟斬りにする。刃が肉に沈み、赤色が飛び散った。 「くっ……」  小さく苦悶の声を上げる。さらに追撃しようとする勇者を魔力の放出で弾き飛ばし、魔王は距離をとった。 「ぬぅ……」  傷を撫ぜ、意識を集中する。たちまち黒い魔力が集まり傷を包んだかと思うと、明らかに致命傷に思えた傷が瞬きする間もなく塞がった。音を立てて首を回し、勇者を睨む。 「諦めたらどうだ。私の体を構成するのは魔力。魔力さえあれば、例え即死したとしても私はすぐに完治する。よく知っているだろう」 「何度も言っているだろう。それならばその魔力尽きるまで殺す」 「それにも何度も同じことを言っている」  魔王が暗黒を固めたようなマントを翻す。その体に魔力が集まる。上から、下から、右から、左から。魔王城の壁さえも突き抜け四方八方から集まるどす黒い魔力は魔王の右手に集まり、さらに黒く、強く、鋭い爪を形作った。 「私はこの世界全てから魔力を集められる。すなわち不死身だ」 「……相も変わらず、気持ち悪い」  嫌悪感を隠さず吐き捨てる勇者。その様子を、魔王は笑い飛ばす。
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