第1章

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この日竜一は優花と待ち合わせをしていた。場所は駅前の喫茶店だ。なんでも新しい新曲を作るのに歌詞を書いたので見て欲しいとのことだった。ちょうどよかった。妻の恵子と結菜は朝から出かけていた。日曜日なのにいったいどこにいくのか。たまに恵子は大学生だったころの友達を遊ぶことがあったので、そんなに気にはしていなかったが、なにやらいつもよりよそ行きの恰好をしていたのが気になった。結奈の服も新調したらしく、可愛いフリルのついたピンクの服だった。 全く、俺には小遣いを渡さないくせに結菜には惜しみなく金を使いやがって。イライラしながら自転車で駅前の喫茶店について優花に連絡を取った。もうすでに優花は中に入っているようだった。優花に挨拶すると竜一はレジでポイントカードと割引券を使ってホットドッグを注文した。本当はアイスコーヒーも頼みたかったが二百七十円もしたので諦めて水を飲むことにした。 「やあ。優花。こないだは遅くなっちゃったけど大丈夫だった?」 「うん。ちょっと親に怒られたけど大丈夫だよ。いつもの事だし。」 「今は二年生だから、時間あるんだろうけど、来年は大学を受験するんだろう?」 「まぁね。でもまだ進路は決められないかな。今私がやりたいのは音楽活動。学校の授業は退屈でしかたがないの。他にやりたいことは特にないしね。」 「気持ちはわかるなぁ。俺も自慢じゃないが高校生の時はろくに勉強をしないで暇をもてあましていたしね。高三の夏前になってようやく目がさめて慌てて勉強し始めたけど受かったのは第三希望の大学だけだったよ。家が貧しかったから親との約束で浪人は無し。その大学に不本意ながら通ったね。優花のところはすごい立派な家だったし親も大学行くようにいってるんじゃないの?」 「親は確かにうるさいよ。うちは父親しかいないんだ。父と母は私が小さいころに離婚して男手一本で育てられたけどことあるごとに父親には反発してるね。」 「そりゃ、心配しているだろうしね。娘の幸せを考えたらそう思うさ。」 同じ娘を持つ身として心底そう竜一は思った。 「お父さんは何の仕事をしてるの?」 気になっていたことをそれとなく優花に聞いてみた。あれだけの豪邸だ。どこぞの社長か医者かに違いない。俺みたいなちんけなサラリーマンではあるまい。この社会の構図は雇用者が裕福で、雇用される側はいつまでたっても貧乏という構図で出来上がっているのだ。
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