第1章

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第九章 優花の家にて 喫茶店を出てまだ時間があったので優花の家におじゃますることにした。日曜日は父親はほとんど仕事の関係で家にはいないらしい。誰もいないのであれば何も問題がなかった。それに竜一には自分の考えを実行するのには好都合だった。 重くて重厚なドアを開け、広いリビングに通された。二十畳以上はあるだろうか。奥にはグランドピアノもおいてあった。 「ピアノもやっているんだね。」 竜一は体が沈みそうなくらいゆったりしたソファに腰掛けながら、奥でコーヒーをいれてくれている優花に声をかけた。 「父親命令で5歳ぐらいから強制的にやらされたの。初めは友達とも遊べなくて嫌だったけど今思えば私の音感やリズム感もピアノから基礎を学んだのが生きているのだから感謝しなきゃね。」 優花が少し自嘲気味に笑った。 「本当に立派なピアノだね。」 竜一はピアノに近づき驚くふりをしながら周囲をすばやく見渡した。何か金目の物は ないだろうか。現金を盗むとさすがに気がつかれるだろうから、足のつかないようなものがよかった。大きなテレビの下のテレビ台の下の引出しをそっと開けた。中には赤ちゃん雑誌、人気モデルがのった雑誌、その下にチケットらしきものが見えた。さっと引き抜いて目を通すと今有名な男性アーティストのライブチケットだった。竜一は気づかれないようにさっと自分のバッグにしまい、引出しをもとに戻した。さすが芸能関係をやっている社長の家だ。一般人は手に入らないチケットはこうしてコネがある人物のもとに優先的に流れるようになっているのか。とにかくこれを換金すればいい小遣いになるに違いない。 ほどなくして、優花が戻ってきた。表情の変化がわからないように竜一は携帯をいじっていた。 「遅くなってごめんね。ドリップ式のコーヒーだから時間かかちゃった。」 「全然大丈夫だよ。時間はたくさんあるし。ドリップ式かぁ。いいね。俺なんていつも薄いインスタントコーヒーしか飲んでないから ありがたいよ。」
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