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そのまま金を奪えば犯罪になる。合法的に手に入れるにはどうしたらいいのか。竜一はとりあえず、曲に聴き入るフリをして、体を揺らしながら少女に近づき、ギターケースに百円玉を投げ入れた。少女がこちらに気付き、会釈をした。こちらも軽く会釈を返す。それ以上の交流のしようがないため、少女が歌い終わるのを待った。時間は二十二時を過ぎようとしていた。少女は帰り支度を始めた。周りの観客も少しずつ離れ始めた。竜一はその瞬間を逃さず、さっと少女に近づき声を掛けた。「とても良い曲でした。オリジナルですよね。歌詞にとても共感出来ました。私も同じようにストリートで音楽活動をしているんです。良かったら少し話しませんか。」
少女は少し怪訝そうだったが、音楽仲間がいて嬉しかったのか、自分の活動について話し始めた。自分がまだ高校生であること。音楽活動をして将来はプロを目指していること一緒に活動してくれる仲間も募集していることを話してくれた。
竜一は身の上話を話半分で聞いていたが、すでにこの時点で当初の計画倒れになりそうでがっかりしていた。場所を移して音楽について語りましょう。という名目で居酒屋に誘い、財布を忘れたという理由でおごってもらおうと思ったがさすがに高校生ではまずい。言い訳のしようが無い。
下手したらこちらが捕まってしまう。竜一はすでに少女の金は諦めていたが、少女が抱える立派なハードケースのギターは少女一人が運ぶには重荷に見えた。竜一は仕方なく少女の家の近くまで抱えて運んであげることにした。それにさっきの話もあながち嘘じゃななかった。竜一は学生時代にバンド活動をしていた。プロを狙えるレベルでは到底なかったが受験勉強に疲れた時に奏でるアコースティックギターの音色が自然と心を癒してくれた。懐かしく思い出すと同時にこの清らかな少女の夢も応援したくなったのである。
第二章 ベビーモデル
恵子は常にイライラしていた。一才になる娘の結菜はいうことを聞かなかった。ご飯はなかなか食べないし、家の中はぐじゃぐじゃ、片づけても片づけても散らかってしまう。本来、完璧主義でA型の恵子は子育てに対して戸惑っていた。これを私の母親も乗り越えて来たのかと思うと、母親の事を少し尊敬した。
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