第1章

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 加えて思ったよりも旦那の竜一の給料が少なくて家計のやりくりに疲れていた。わりと大手の会社に勤めているのにもかかわらず、二十代前半ぐらいの給与体系から変わっていない。いまだに平社員だし、今後いつ出世するのかも検討がつかない。可愛い結奈をこれから将来私立の大学まで出して一人前にするには貯金が必要だ。すこしでも節約しなければとかねがね思っていた。竜一には月々二万円しか渡していない。もともとの稼ぎが少ないのだからそれで十分だ。もっと欲しければ稼ぎ自体を増やしてもらわないと困る。  恵子はまじまじと銀行通帳を見つめた。今今月もやりくりが厳しかった。固定費として家のローン代、光熱費、インターネット代、携帯代、食費、雑費、結奈の学資保険代を差し引くとほんの少ししか貯金が出来なかった。これでは外食も旅行もいけない。恵子はためいきをついた。  通帳の引出し記録の中に目立つ大きな金額があった。恵子は先月入った竜一のボーナスをほぼ全額引き出していた。もちろん竜一には秘密だ。貧乏生活を抜け出すには節約だけではたかが知れている。投資をして増やさなければならなかった。恵子は娘の結奈をベビーモデルにするつもりだった。私に似て可愛い結奈なら絶対に稼げるはずだった。白く透き通った色白の肌。くりくりと大きな目。生まれつき少し茶色がかった栗色の髪。どこに連れて行っても可愛いと言われた。ベビーモデルにするに事務所の登録料が必要だった。これに数万かかる。大手なら十万単位だ。恵子は大小問わず、はてはインターネットで検索した怪しげな業者にまで片っ端から連絡をとり登録料を払い、仕事の連絡を待っていた。初期費用がかかるのは仕方がない。しかしベビーモデルを足掛かりに人脈を作り、各プロダクションの重役にでも目がとまれば芸能界に入れることが出来るかもしれない。恵子の夢は膨らんだ。  一般女性が厳しい社会で高い給料をとるのは難しい。対して、モデルや女優などテレビで活躍する芸能人は私とはまったく違う世界で生きている。収入、ステータス、名誉、世間からの羨望の目。命がけで生んだ結奈を私は一生かけて守る。そして幸せな人生を歩ませるのは親としての義務だ。子供は親を選んで生まれることは出来ない。私のもとに生まれて来てくれた結奈のためにも必ず結奈を立派なベビーモデルにする。恵子は固く決意した。  第三章 豪邸
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