第1章

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 竜一は同じ場所に通帳をこっそりと戻した。そして自分の部屋にそっと入りベッドにもぐった。頭がガンガンと痛かった。昔から竜一はストレスがかかると頭痛がするタイプだった。冷凍庫には竜一用のアイス枕が常備してある。俺が通帳を見たことは恵子には秘密だ。なにくわぬ顔であいつの行動を監視しなければ・・・。竜一は冷凍庫からアイス枕を持ってきてそっと頭の下に敷き、眠りに落ちた。  第五章 すくすくプロモーション  恵子がパートの仕事の休憩でカバンを取りに戻ると携帯が鳴っていた。もしかしてベビーモデルの仕事の依頼かもしれない、恵子はすぐさま着信履歴を見た。見慣れない携帯の番号だった。恵子は発信のボタンを押した。何コールか鳴った後、図太い男性の声がした。  「すくすくプロモーションの堀口です。」  「岩間恵子と申します。先ほどお電話いただいたみたいで折り返しさせて頂きました。」自分でも驚くほど丁寧に切り出した。  「これはどうも。先日入会のお申込みを頂きまして誠にありがとうございます。さっそくですが是非、結菜ちゃんに出ていただきたいシーンがあるんですよ。」  「本当ですか。ありがとうございます。どんなシーンなんでしょうか。」  「そうですね。電話では説明が難しいので一度こちらの事務所で打ち合わせをお願いでできますか。今週の日曜日に事務所でお待ちしていますよ。」  堀口の口調には有無を言わさない響きがあった。恵子は時間と場所を確認して電話を切った。興奮がかくせなかった。やった。ついに仕事が来た。どんな仕事かわからないが、結菜の可愛さなら絶対に受け入れられる自信があった。これをあしがかりに仕事を増やしたい。小さくスキップをしながら仕事場に戻った。将来はこんなパートの仕事ともおさらばしてやる。周りの同僚の世間話をしている姿が嫌で仕方なかった。どうせたわいもない芸能人のゴシップ話で盛り上がっているのだ。  「岩間さん。なんかハッピーな顔してますよ。何かあったんですかー。」  隣の席の岩崎さやかが話しかけてきた。まだ二十代の若いママだ。恵子は岩崎の明るい感じが苦手だった。何も考えていない奴には何も言われたくなかった。  「別に何もないよ。さっき食べにいったランチが今日は大盛りが無料で得しちゃった。」  「えー。そうなんですか。得しましたね。今度私の分もおごってくださいよ。」
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