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岩崎が調子よく甘えて来た。だれがおごるか。ムカッと来たが調子を合わせておくことにした。
「そうだね。また今度給料が入ってからかな。」
「岩間さんたら、給料が入らなくても結構持ってらっしゃるんじゃないですか。だって旦那さんは大手のメーカーにお勤めしてますよね。」
ますますムカッと来た。こっちはその旦那の給料が少ないからこうして働いているのだ。好きでパートをやっているんじゃない。
「いや、今結構大変なんだよね。ボーナスの額も少なかったしね。」
恵子は話を切り上げようと背中で返事をした。岩崎も「そうなんですかー。」といいながら仕事に戻った。全く疲れる女だ。今日は早く切り上げて結菜の新しい服を見にいこう。恵子は仕事のスピードを上げた。
第六章 家庭教師
優花が家に帰ると鬼の形相で父親が玄関に立っていた。
「優花、勉強もしないでおまえは何をやっているんだ。ギターなんか持ってうろついていて。今日だって家庭教師の先生を一時間も待たしているんだぞ。」
「ごめんなさい。今日だって忘れてた。すぐに用意します。」
今日来るのは知ってはいたが父親が優花に勝手に家庭教師を雇って勉強させるのは優花には迷惑だった。確かに成績は悪いが今は学校の勉強より音楽活動のほうがはるかに面白かった。数学や物理を一生懸命に勉強して何の役に立つのかがわからなかった。それより私が駅前で歌うことで少なくても自分の歌に共感をして聞いてくれる人がいる。歌詞に共感してくれる人がいることのほうがよっぽど社会の役に立つと思った。
「早く準備しろ。」
それだけ怒鳴ると父親は奥へと消えていった。優花は父親がどんな仕事をしているのか詳しくは知らなかった。だが、電話で話している内容やリビングに置いてある仕事の関連本から推測するとベビーモデルを使って雑誌・広告のプロモーションをしているようだった。時折業者なのかモデルの母親なのかわからないが電話ごしに怒鳴っていた。父親の事を優花は全く好きになれなかった。
ギターを置いて部屋に入ると家庭教師の川崎美雪が待っていた。有名私立大学の現役女子大生で知的な雰囲気が滲み出ている。エリートぽい感じが優花は苦手だった。
「優花ちゃん。お帰りなさい。遅かったね。」
嫌味っぽく川崎が言った。
「先生。ごめんなさい。すっかり今日来てもらうこと忘れてました。」
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