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男の巨体が真上に吹っ飛び、赤色の衣に金髪の少年が陰火を抱え上げた。
「すまん。遅れたっ!!」
「本当です。山都大聖、どこで道草してたんですか」
ギュッと山都に抱きついて、
「夏祭りはまだ、終わってません。だから……」
「ああ、この程度の奴ら、五分もあればじゅうぶんだ」
とポンポンと頭を撫でられ、陰火はプイッとソッポを向き、騒ぎを聞きつけた不良達がゾロゾロと集まり、
「ここは神社だからな。あんまり、騒がしいことはしたくねぇし、さっさとこんな祭りは終わらせるか」
にやぁと獰猛な笑顔を山都が見せた。五分後。叩きのめされた不良達が発見されるのは、今朝のことだったそうだ。
一方、不良達を叩きのめした、山都は目の前の光景にんーっと困惑していた。一言で言えば、やけ食いということになるのだろう。
山都が買ってきた、焼きそばやその他の食べ物を陰火が食い荒らしているのだ。文字通り、ムシャムシャ、バクバク、モグモグという表現が似合う。
「あのな、陰火。そんなに一気に食わなくても誰も取らないぞ?」
「ラムネっ!!」
「はぁ、ラムネ?」
「ラムネを買ってきてください。喉が乾きました。早く」
「お、おう、了解」
陰火の鬼気迫る雰囲気に、山都大聖ははじかれるようにラムネを買いに出かけ、陰火は一人で、こっそりと泣いた。
勝手に出て行こうとして、結局、助けられた自分が情けなかったこともある。だから、泣いてしまう前に必死に食べて泣いている顔を見られないようにした。
『難しいことを考えている奴が偉いわけじゃない。そんな奴は自分を見失っているだけさ』
脳裏に響き、陰火は思う。なら、今の自分はいったいなんなんだ? 強さを失い、鬼としての力も弱まり、どこにも行けない情けないだけの自分はいったい何者なんだ? そもそも、こうして悩んでいるほうがバカなのか。
「なにしてるのよ。このバカ」
「え?」
いつのまにか現れた、鏡から鏡子が顔を出して、陰火を強引に引っ張り込んだ。
「あーもう、せっかくの化粧が台無しじゃない。顔、ぐちゃぐちゃですごいことになってるわよ」
まぁ、アンタにはそのほうがお似合いでょうけどと言いつつ、鏡子は陰火を椅子に座らせた。
「山都が戻ってくる前になおすわよ」
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