第1章

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自分が何者なのか、そういう悩みは子供の頃、高校生あたりにふと、考えることがある。自分が何のためにここにいて、どうしたいのか。何にたりたくて、何がしたいこか。 未来という漠然とした世界を見渡すには、この世界はあまりにも広すぎる。子供のうちは幼いゆえに、狭かった視野も、成長していくにつれて、どんどん広がっていくものだ。将来の夢、目標にむけて、進む。 そして、彼女も、そういった悩みを抱えていた。自分が何者のか、最近、わからなくなっている。彼女は鬼。人を食う鬼として存在していた。かつては人として生まれ、しかし、その容姿の異様さから鬼へと転がりおちた。 人をやめ、鬼になった。人を食う、鬼となったのだけれど、それも過去の話だ。彼女は鬼の力の大半を失い弱体化したからだ。とある金髪の少年と、死闘を繰り広げ、相打ちのすえの結果と言えば納得できた。   ただし、そこで終わりではなかった。彼女は弱体化しても、幼女になろうとも、全ての力を失ったわけではない。不死に近い身体に、白髪、額には小さな鬼の角が突き出している。しかし、身体能力はほとんど子供と変わらない。 金髪の少年に頼り、居候の身として、屋敷に世話になる日常は、彼女にとって心地いいものだっが、それと同時に彼女の心に小さな傷を残した。 自分はいったい何者なんだ? 鬼なのか、人なのか? 一人になるといつも考えてしまう。彼女の過去にまつわる事件が解決してから、その悩みはさらに深くなっていく。先の見えない悩み、わかりやすい解答がないことに苛立ちを感じながら、彼女は買い物袋を両手に持ち、歩いていた。 「お? そこにいるのは陰火ちゃんじゃないか。おつかいな? 偉いなぁ」 と彼女こと、陰火に話しかけてくる男がいた。男の容姿ははっきり言って、浪人生のようだった。ボロボロのジャージに無精ひげ、丸眼鏡。髪は寝癖だらけのだらしない格好。ニコニコと笑顔で笑うあたり、陰火と違って悩みはなさそうな男である。神社雄太郎(かみやしろ、ゆうたろう)というのが男の名だ。 「なんの用ですか。まさか、また、迷ってるんですか?」 陰火とは、彼が道に迷って困っている時に道案内して以来、出会うたびに話しかけてきているのだ。 「いやぁ、可愛い白髪の女の子がいたから話しかけただけさ。それにしても陰火ちゃんは今日も真っ黒なメイド服なんだね。暑くないの?」 「慣れているので平気です」
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