第1章

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「いいです。わたくしには、そんなことしてもらう権利は」 「ハッ!! また、そうやって弱いふりをするの? いい、ご身分ね」 鏡子は仮面を外して、傷だらけの顔を見せた。 「アンタさ。どこかに行こうとしてたんでしょ」 「…………」 「その顔は図星ってところね。ま、アンタの考えそうなことくらいすぐに予想できたけど」 鏡子はまっすぐ、陰火を見て言う。 「逃げるんじゃないわよ。絶対に。私はアンタのこと、許したわけじゃないし、今でも憎んでる。ぶち殺してやりたいと思うことだってたくさんある」 なんせ、こんな顔にされた奴が目の前にいるのだから。 「でも、今のアンタにはしないって決めてる」 「どうして」 殺すなら、殺せばいい。 「一言で言うなら、アンタが幸せそうだから、特に山都大聖と一緒にいる時は一番、嬉しそうにしてる。まぁ、なんだかんだ言って私も今の生活を楽しんでるわけ」 それにこの顔になったのも、全部が陰火のせいってわけでもないしと鏡子は言う。 「憎しみとか、怨みってなかなか持続しないものよね。正直、こんな姿になった直後はアンタのこと怨みはしたけれど、だんだん、そう思うのもバカバカしいって思うようになってきた」 時間の問題ってやつなのかもしれないけれど、 「何より今の生活が私は気に入ってる。堅苦しい規則や繋がりみたいな物がない。今の生活がね」 だから、壊したくないと鏡子は思う、でも、 「アンタがここから出て行くんだったら今度こそ、私はアンタを殺すわ。鏡の世界に引きずり込み、永遠に出られない監獄に叩き込む」 鏡子はそっと陰火の方に手をおいた。 「アンタは、もう、何も縛られてない。自由なの。だから、自分らしく生きていい」 「その自分らしさがわからないのです。鬼でもなく、子供のような身体になり、誰かに助けられるだけ」 そんな自分は情けない。 「いいじゃない。誰かに助けを求めて、子供らしく? むしろ、そっちのほうがいいわ。アンタは難しく考え過ぎてるのよ」 「考え過ぎ?」 「そう、難しく考え過ぎてる。素直になればいいのよ。山都大聖にね」 「だから、なぜ、あの男の名前が出てくるのですか!!」 「やっぱり、こういうところはお子様なのね」 「よくわかりませんが、バカにしていることはよくわかります」 ムッとする陰火に、鏡子はまぁまぁとなだめながらくるりと反転させて、
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