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「郷に入っては、郷に従え。陰火ちゃん。難しいことを考えてる奴が偉い訳じゃない。そんな奴は自分を見失ってるだけさ。そうやって自分を取り繕ってるだけ。時にはパーッとバカみたいに騒いだほうがいいんだぜ」
せっかくの祭りだ。楽しまなきゃ損だと、雄太郎は言い残して去って行った。
難しいことを考えてる奴が偉いわけじゃない。そんな奴は自分を見失ってるだけさ。雄太郎の言葉がいつまでも繰り返し、頭の中に繰り返し思い浮かんだ。
「難しいことを考えてる奴が偉いわけじゃない。自分を見失っているのは、私みたいじゃないですか」
自分が何者なのか、考えてもわからない、難しいことを考えている、自分を見抜かれた気分になり、陰火は背筋に冷や汗をかいた。
数日後、陰火はスーハーと深呼吸を繰り返した。昼下がり、昨日、徹夜で仕事をしていた金髪の少年は朝から寝ている。このタイミングしかない、他の連中は用事があって出かけている。まさか、夏祭りのペアチケットを渡すところを見られたくなかった。
「なんで、わたくしがこんなことで悩まなくちゃならないんですか。こんなチケットごときで、悩まされるなんて」
嫌ですと言いかけたとき、扉が開き、金髪の少年がボリボリと頭を掻きながら出てきた。
「なにやってんだ。陰火」
「あわ、あわわ、山都大聖。き、きぐうですわね」
「きぐうって、朝に会っただろ」
「そ、そうでしたか? そ、掃除をしなくちゃいけなかった。あ、」
「ん? 夏祭りのペアチケットじゃねぇか。なんだ、真朱でも誘って行くつもりだったのか?」
ホレと手渡され、陰火はアワアワと答えに困った。確かに山都の言うように、真朱を誘おうかとも思ったが、真朱は、学校の友達と行くと言っていたので誘えない。ええい、破れかぶれだと陰火は言った。
「べ、別にわたくしは、このようなイベントなんてまったく興味がないのですか、暇を持て余している貴方にあげようと思っただけです」
「俺は別に暇じゃないんだけどな」
ボリボリと頭を掻く、山都。
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