第1章

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「郷に入っては、郷に従え。陰火ちゃん。難しいことを考えてる奴が偉い訳じゃない。そんな奴は自分を見失ってるだけさ。そうやって自分を取り繕ってるだけ。時にはパーッとバカみたいに騒いだほうがいいんだぜ」 せっかくの祭りだ。楽しまなきゃ損だと、雄太郎は言い残して去って行った。 難しいことを考えてる奴が偉いわけじゃない。そんな奴は自分を見失ってるだけさ。雄太郎の言葉がいつまでも繰り返し、頭の中に繰り返し思い浮かんだ。 「難しいことを考えてる奴が偉いわけじゃない。自分を見失っているのは、私みたいじゃないですか」 自分が何者なのか、考えてもわからない、難しいことを考えている、自分を見抜かれた気分になり、陰火は背筋に冷や汗をかいた。 数日後、陰火はスーハーと深呼吸を繰り返した。昼下がり、昨日、徹夜で仕事をしていた金髪の少年は朝から寝ている。このタイミングしかない、他の連中は用事があって出かけている。まさか、夏祭りのペアチケットを渡すところを見られたくなかった。 「なんで、わたくしがこんなことで悩まなくちゃならないんですか。こんなチケットごときで、悩まされるなんて」 嫌ですと言いかけたとき、扉が開き、金髪の少年がボリボリと頭を掻きながら出てきた。 「なにやってんだ。陰火」 「あわ、あわわ、山都大聖。き、きぐうですわね」 「きぐうって、朝に会っただろ」 「そ、そうでしたか? そ、掃除をしなくちゃいけなかった。あ、」 「ん? 夏祭りのペアチケットじゃねぇか。なんだ、真朱でも誘って行くつもりだったのか?」 ホレと手渡され、陰火はアワアワと答えに困った。確かに山都の言うように、真朱を誘おうかとも思ったが、真朱は、学校の友達と行くと言っていたので誘えない。ええい、破れかぶれだと陰火は言った。 「べ、別にわたくしは、このようなイベントなんてまったく興味がないのですか、暇を持て余している貴方にあげようと思っただけです」 「俺は別に暇じゃないんだけどな」 ボリボリと頭を掻く、山都。
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