第1章

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「と、とにかくです。差し上げますから、蛇目さんでも誘って行ってきたらいいでしょう」 わたくしはいりませんと言ってしまい、内心でやってしまったと思った。山都を誘うつもりだったのに、それを台無しにしてどうするんだ。 「まぁ、くれるって言うんだったらもらうけどさ。行くんだったら、陰火と行きたいな」 「ふぇっ!? なんでですか。わたくしは興味ないと言っているでしょう」 「だって、これは陰火が貰ったんだろ? なら、これはお前の物だし、息抜きにいいだろ? お前、最近、難しい顔してること多いしな」 息抜きしようぜと山都に言われ、陰火はムグムグと悩んだすえに、 「山都が言うのなら、仕方ないですわね。行きますわ」 「よし、決まりだな。俺はこれから仕事だからな。掃除、頑張れよ」 「は、はい」 (『お帰りなさいませ、ご主人様』なんて言ってくれると嬉しいな) 雄太郎の言葉が脳裏によぎり、陰火はブンブンと頭を振って、一息ついて、なんとなく天井を見上げた瞬間、陰火はギョッとした。 「「「フフフ、見たぞ。聞いたぞ。誘ったなぁーー」」」 境鏡子、蛇目日傘、月乃熊実。天井に張り付いているところを見ると、一連の光景は目撃されたと思っていいだろう。用事なんて言って陰火を騙して、こっそり見ているつもりだったのだ。まさか、天井に張り付いているとは思わなかったが。、 「可愛かったね。山都くんに誘われた陰火ちゃん、小さくガッツポーズしてたしね」 「そうね。陰火のくせに夏祭りなんて許せないけど、まぁ、認めてあげなくはないわ」 「そうだねぇ、こっそり、蛇で串刺しにしてやろうかとも思ったけど、山都くんに怒られるのはイヤだしねぇ」 シュルシュルと蛇をつたい、降りてきた。鏡子達はニヤニヤと陰火を見ていた。 「なんなのですか。ニヤニヤして、わたくしが誰とどこに行こうが勝手じゃないですか」 小さな身体を大きく見せるように、陰火はフンッと鼻を鳴らした。ここでうろたえれば、彼女達の思う壺だからだ。内心では冷や汗、ダラダラだったが、メイドらしく、ポーカーフェイスを貫いた。
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