第1章 そばにいたい

3/6
前へ
/32ページ
次へ
<そばにいたい> ーレヨンsideー マッサージが終わった。 「風呂!ぬるめで!」また口から出たのは、こんな言葉…言葉が足りない。 「はい」と、ひたすら従う なな 。 「じゃあ入るぞ!」ぐしゃぐしゃの顔のまま、ついてこれていない様子の なな を尻目に。俺は、ずるずると ななを風呂場に引きずっていった。 明らかに あわわわ している なな。 まぁ、薄着だし!このまま入れるか。 キャミソール姿の なな を、浴槽に そのままつけた。 ひゃっ!っと叫ぶ なな。しかし諦めるしかない状況。 「頭出せ!」と言いながら俺は、なな の頭を自分の方へグイっと引っ張り、ガシガシ髪の毛を洗った。 風呂場に広がる薔薇の香り。薔薇が好きな なな の為、お土産に買ってきたシャンプー。今日持ってきて良かった。 ハーブも混ざっており、爽やかな香りが鼻に抜けていく。 泡を流し、タオルで荒々しく髪を拭いてやる。タオルごとグイっと頭と顔をこちらに引っ張ると 小さな なな の顔がやっと見えた。 「まだ泣いてんのか?」濡れたタオルを、ぐしゃぐしゃと なな の顔に押しつけ、涙を拭う。 「っちが!…これは、嬉し涙で……」泣きながら微笑んで、なな は続けた。 「……とってもいい香りですね。うれしい。ありがとうございます」いつもの柔らかい笑顔を見せた。 ほっとする俺。しかし、その笑顔にごまかされる訳にはいかない。 「たまには、人にやってもらうのもイイもんだろ。着替えて来い」とぶっきら棒に言うと、 なな を残してリビングに戻った。 ーーカチャーー リビングのドアが開き、Tシャツに着替えた なな が入ってきた。目が腫れている。 ふっ。「ヒドイ顔だな」また意地悪く言う俺。慌てて両手で顔を隠す なな。顔が赤い。何かって言うと、すぐ顔を赤くするんだから……可愛いけど。ニヤけそうな顔を真顔に戻し、なな をリビングのソファーの俺の隣に腰掛けさせた。 なな の細い肩が少し触れた。ココロの距離も、これくらい近くなっただろうか……
/32ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加