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教室に入ってきたのは、担任の佐津臣(さつおみ)先生だった。
髪は短くはなく量が多くて、それを後ろに流し、無精髭を生やしていて、背は高くがっしりした体型で、顔はイケメンなモテるおじさんという感じの、30代前半の男性だ。
しかし、その人が今ここに来たということは、まさか・・・・・?
「よお、木劇(きげき)。ここで何してんだ?」
先生は怪訝そうに聞いた。
「忘れ物を取りに来ました」
先生を前にして、手汗がとまらない。
「んん?こんな時にか?もう夏休みも終わるぞ?」
「あはは・・・・・めんどくさいめんどくさいと思ってたらこんな日になっちゃって」
「おいおい、そんなんで課題までこんな日になっちゃってたら困るぞ」
先生は笑って、いつもの気さくな感じで話かけてきている。
その様子からみると、バレてないように思える。
「あ・・・・・そうだ、取りに来たのはいいけれど、お前、あのランドセルになんかしたりしたか?」
「へ!?えっと、いいえ。触ってはいません。
見てただけです僕は」
唐突な質問に、心臓が飛び出るかと思った。
やっぱりバレているのか・・・・・?
「ビビりすぎだろ、怪しいやつめ。
まあいいんだけどな。
じつは俺のやつなんだ、あのランドセル。
おかしいか?
言っておくが、ランドセル好きの変態じゃあねえぞ」
先生はほんとうに気にしてない様子で、冗談まで加えながらこともなげに、自分の持ちものだと告白した。
「そうなんですか・・・・・それはよかったです」
適当な相槌のせいで、よかったです、と少し本音が出てしまった。
「よかったってなんだ。
やっぱり疑ってたのか俺が変態だと」
「いや、そうじゃないですけど」
なおも適当な相槌を打ちながら、ランドセルについて隠せるかどうかをずっと案じていた。
隠し通さなければ、まずいことになる。
手に汗を握りながら、しかしやっぱり気になるのは、なぜか、ということだった。
先生が持ち主なのはわかった。
じゃあなぜランドセルがここにあるのか、その謎は残ったままだ。
意を決して
「先生、このランドセルはどうしたんですか?
どうしてここに?
お子さんいましたっけ?」
と、軽い感じで聞いたが、そう聞かれた途端、先生は顔を曇らせ黙った。
まずかったかもしれない。
聞かない方がよかったのかもしれない。
身じろぎもできない沈黙が教室を満たしたあと、先生は
「・・・・・おじさんの昔話、ききたいか」
と、そう言った。
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