教室

10/22
前へ
/22ページ
次へ
ここから先はあえて書くまでもないだろう。大きなタイムロスを負ったF組はリレーを最終着で終え、総合成績も4位という結果で体育祭の幕を閉じた。 そんな結果になっても、周りのクラスメイトは決して壮一郎を責める事はしなかった。それどころか、その走りに拍手をする者までいる始末である。 それが壮一郎の心をより深い角度で抉るという事実に、気づいてる者はいないようだ。あるいは、それを知って皮肉で拍手をしていた人間もいたかもしれない。 どちらにせよ思春期のナイーブな精神にはとても耐えられるものではなかった。 壮一郎は担任の小澤に保健室に行くことを伝えると、その後の閉会式を抜け出した。 幸い転んだ際に膝を擦りむいていたので、理由には困らなかった。 保健室に行くと言ったが、しかし壮一郎はその足で教室に向かった。どうしても一人になりたかったのだ。 騒がしい閉会式など見ていられない、ましてや優勝して色めき立つA組などと同じ空間にはとてもいられなかった。 教室に入り、その窓際最後列の定位置に深く腰掛けて、力尽きたように背もたれに体重を預けた。 秋口の夕日の温度は程よく、満身創痍の体に染み入る。 もう少しで涙がこぼれていただろう。声をかけられて辛うじて壮一郎はそうなるのを堪えることができた。
/22ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加