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「かっこわるーい」
夕花だった。
この時、壮一郎と夕花の関係性は一クラスメイトの枠を越えたものではなく、わざわざ罵詈雑言を吐きに来るほど険悪でも、ましてや励ましに一人で来るほど親密でもなかったはずだ。
「なんだよ。自分でもカッコ悪いと思ってるよ、あんなとこで転んで」
「バカだね。そういうとこだよ」
壮一郎には彼女が何を言っているのか理解できなかった。
「勝手に一人でうじうじ悩んじゃってさ、バカみたい」
「分かんないだろうよ、肝心なとこでずっこけるような奴の気持ちなんか」
「分かるわけないじゃない。私は転ばなかったもん」
そうだ、と壮一郎は思った。この女は最終種目の一つ前の女子リレーで、見事アンカーとしてトップで走りきったのだった。
壮一郎は黙るしかない、目線をあわせることすら憚られた。
「……胸張りなよ」
「え?」
しかし予想だにしないその言葉に、壮一郎は反射的に夕花の方を見て聞き返してしまった。
しかし、今度は夕花の方が目線をあわせようとしない。顔が赤く見えるのは夕日のせいだけではないのだろう。
「凄い走りだったよ。知ってる?後ろを追ってたの陸上部のエースだったんだよ、それをグングン引き離しちゃってさ」
それは知らなかった。が、確かに何かの表彰で見たことがあったかもしれない、と壮一郎は思い出す。
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