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太陽は完全に沈んでしまった。
暗闇に包まれた教室は、しかし電気もつかない。
よって冷房などつくわけもないこの部屋で、壮一郎は額の汗を手で拭った。真夏のこの時期は夜でも気温が高く蒸し暑い。今夜は熱帯夜だな、と壮一郎は思った。
こんなに暑いにも関わらず、外にはいつの間にか、蝉の合唱団が訪れていて、せっせと(正確にはみーんみーんと)求愛行動に勤しんでいる。
壮一郎は椅子から立ち上がると、窓辺へと近づいた。
窓から空を見上げると数えきれないほどの星の光が目に飛び込んでくる。
数ヶ月前までは高層ビルや街の明かりに負けて、その輝きを掻き消されていた星達だが、今はその時の鬱憤を晴らすように力強く光っている。
その様子を見て、壮一郎は自身の一番大切な記憶を思い起こした。その日の事は雲の形や、虫の羽音に至るまではっきりと覚えている。
それは季節こそ今と真逆の冬の出来事だったが、今日と同じ星空の綺麗な夜のことだった。
その記憶は一本の電話から始まる。
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