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時刻は深夜0時を少し回ったところだろうか。近づく受験に備えて机で計算式を解いていた壮一郎は、突然の着信にペンを置いた。
携帯の表示ディスプレイに目をやると、そこには夕花の名前が青く点滅していた。
通話をオンにすると、夕花は開口一番に、「10分後、駅前に集合」とだけいい放ち、その後は人の都合や意見などお構い無しとばかりに一方的に電話を切った。
まったくわがままで傍若無人、自分はいったいこいつのどこに惚れたのだろう、時々それが分からなくなり壮一郎は頭を抱える。
一方的に取り付けられた約束とは言え、曲がりながりにも女性を深夜に一人で待たせる訳には行かない。
渋々だったが、壮一郎は解いていた問題集を閉じて外出支度を始めた。
途中、母親に少し咎められながら、玄関のドアを開くと、真冬の寒気が問答無用に襲いかかってきた。
一応厚手のコートに朱色のマフラーという完全防備だったが、それでも冷気は針のようにその隙間を縫って肌に突き刺さる。
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