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結局、夕花は一度も目を開かずに壮一郎にしがみつきながら、なんとか教室にたどり着いた。
その結果、壮一郎も違う理由でどきどきするはめになったのは言うまでもない。
教室に着くと、夕花はようやく目を開けて自身の机から書類を探しだした。
「あったあった」
「よし、じゃあさっさと帰るか」
「んーちょっと待って」
踵を返した壮一郎を止めると、夕花は窓辺へと歩き出した。そちらを振り返ってああ、と壮一郎は思った。今宵は月明かりが綺麗だ。
「月が綺麗」
夕花が呟く。雲から顔を出したのだろう、煌々と照る月は教室をまるで昼間のように照らし出した。
壮一郎は懐中電灯のライトを切ると、夕花の側に歩み寄った。
窓から外を見て、壮一郎は仰天した。民家の明かりが全て消えていたからだ。後々ニュースで聞いた話によると、この時変電所のシステム不良により、一時的な集団停電が起きていたらしい。
それが原因だろう。もしくは冬の澄みきった空気もその理由の一つであったかもしれない。
空には溢れんばかりの星達が瞬いていた。
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