教室

19/22
前へ
/22ページ
次へ
「星も本当に綺麗」 「……ああ、そうだな」 壮一郎はそう返すのがやっとだった。星空に見とれていた、それもある。しかし、それよりも月明かりに照らされた夕花から目が離せなかった。 それほどまでに、月明かりに照らされた教室に佇む彼女の姿は幻想的で、とてもこの世のものとは思えなかった。 「もう」 静かに夕花が口を尖らせる。 「君のが綺麗だよ、とか気の効いた台詞は言えないの?」 「え、ああ、すまん」 よく考えたら謝っている意味もよく分からないのだが、この時の壮一郎はそんなことすら気にかける余裕が無かった。 月に照される表情も、窓からの微かな風に靡く長い髪も、すらっと伸びるその肢体も全てが美しかった。 言ってしまいたかった。綺麗だと、美しいと、そして好きだと。 でもどうしても、それだけの言葉が口から出てこない。 「本当にバカ」 夕花は壮一郎を見つめると頬を膨らませた。 「でも」 月明かりで照らされた彼女の頬は赤かった。駅前で恥ずかしさに怒っていたときよりも、もっともっと朱色に近い赤だった。 「この後、どうすれば良いかくらいはあんたでも分かるでしょ」 酷く妖艶で、男の気を狂わせる声だ、壮一郎はそんなことを思った。 これをしよう、という意識が働いた訳ではない。恐らく本能的だったのだろう。 壮一郎は夕花を抱き寄せて、その唇を奪った。
/22ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加