0人が本棚に入れています
本棚に追加
「星も本当に綺麗」
「……ああ、そうだな」
壮一郎はそう返すのがやっとだった。星空に見とれていた、それもある。しかし、それよりも月明かりに照らされた夕花から目が離せなかった。
それほどまでに、月明かりに照らされた教室に佇む彼女の姿は幻想的で、とてもこの世のものとは思えなかった。
「もう」
静かに夕花が口を尖らせる。
「君のが綺麗だよ、とか気の効いた台詞は言えないの?」
「え、ああ、すまん」
よく考えたら謝っている意味もよく分からないのだが、この時の壮一郎はそんなことすら気にかける余裕が無かった。
月に照される表情も、窓からの微かな風に靡く長い髪も、すらっと伸びるその肢体も全てが美しかった。
言ってしまいたかった。綺麗だと、美しいと、そして好きだと。
でもどうしても、それだけの言葉が口から出てこない。
「本当にバカ」
夕花は壮一郎を見つめると頬を膨らませた。
「でも」
月明かりで照らされた彼女の頬は赤かった。駅前で恥ずかしさに怒っていたときよりも、もっともっと朱色に近い赤だった。
「この後、どうすれば良いかくらいはあんたでも分かるでしょ」
酷く妖艶で、男の気を狂わせる声だ、壮一郎はそんなことを思った。
これをしよう、という意識が働いた訳ではない。恐らく本能的だったのだろう。
壮一郎は夕花を抱き寄せて、その唇を奪った。
最初のコメントを投稿しよう!