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「あった」
埃を払った先の、机の左すみに見えたのは、薄く滲んだ赤いハートの絵だった。
思い起こせばこれが全ての始まりだったような気がする。
壮一郎はあの日の事を回想し始めた。
そう、それは出会いの日のこと。
あの日も今日と同じくらい暑い夏休み前の日だった。担任教師の小澤が兼任する現代史の授業は、いつも壮一郎の昼寝の時間になっていた。
「まあこんな風にこの年のこの日に日本は敗戦を受け入れたんだ、ここは基本だからちゃんと覚えとけよ。……ってたく、また笹木は寝てるのかあいつは」
小澤は教壇を降りると、窓側の最後部、壮一郎の席へと向かっていく。
と同時に、教室の視線も一手に壮一郎に注がれる。
「こら、笹木起きんか!」
そして小澤は席に近ずくなり、出席簿で壮一郎の頭を叩き、怒鳴りあげた。
壮一郎はビクッと体を震わせたあと、ゆっくりと起き上がった。
「ふあぁ、おはようございますぅ」
「おはようございますぅ、じゃねぇわ!……ん?」
声を荒げて怒っていた小澤だったが、壮一郎の机の上に何かを見つけた途端、急にニヤニヤと笑い出した。
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