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「笹木ー、お前が机にハートを書くようなロマンチックな奴だとは知らなかったよ」
「ハート?」
壮一郎が聞き返すと小澤は机の右隅を指差して見せた。そこを見ると、なるほど赤いハートがいくつもかかれている。
小澤の皮肉たっぷりの笑顔と共にクラス中が水を得た魚のようにどっと沸く。実際つまらない授業中に起きる一時のイベントは、乾いた中の水に等しかったのだろう。
女子生徒からは「かわいい」という笑いを含んだ声が、男子生徒からは「飢えてんのか?」等という下品なヤジが飛んでくる。
「げっ、これは俺が書いたんじゃねぇよ!」
「他に誰がお前の机に落書きなんぞするか!後でちゃんと消しとけよ」
小澤はそう言い残して教壇へと戻っていった。
小澤が授業を再開した後も壮一郎に向けられる視線は無くならなかった。壮一郎がクラスであまり目立つ方ではなかったからだろう。そういう人間の悪目立ちは格好の話し種になるのだ。
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