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その後、必死に消そうとしたが、ハートは油性ペンで書かれておりなかなか消えなかった。
結局だいぶ目立たなくすることには成功したが消しきることは出来ず、このように数年たった現在でも机の片隅にうっすらと残っている。
このハート事件以来、壮一郎は溶け込めずにいたクラスに馴染んでいった。
そういう意味では神田夕花に感謝しなければならないな、と壮一郎は思った。
荒れ果てた現在の教室で壮一郎は椅子に腰掛けた。机のハートをいとおしそうに指で撫でる。
「ここから全て始まったんだよな」
誰にともなく呟いたような声は、しかし確実に特定の誰かに向けて発せられたものだった。
椅子の背もたれに体重をかけると、錆び付いた金属の軋む音が聞こえた。
先程よりも西に沈んだ太陽は、教室内に夕焼けの光を届ける。その光は机や椅子の金属部分に反射して、室内全体を真っ赤に染め上げた。
そういえばあの日もこの椅子に座って夕日を眺めていたなぁ、と壮一郎は再び過去を思い返す。
それは夏休みを過ぎて、秋が深まり始めた日。
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