教室

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去年までの壮一郎ならこの局面でも無関係でいられただろう。壮一郎自身は体育祭に関してそこまでやる気のある方では無かったし、なによりクラスが壮一郎に対して無関心だったのが大きい。 しかし、この年はそうはいかなかった。 ハート事件以降、クラスの中心にあれやこれやと担ぎ出された壮一郎は、その足の速さに目をつけられ、この全学年リレーのアンカーに抜擢されたからだ。 各学年二人ずつ走者を出し、一年生から順にバトンを繋いでいく。その第六走者として、バトンをゴールに運ぶという大役にだ。しかもこの僅差の状況で。 どんな人間でもプレッシャーを感じるような状況で、例に漏れず壮一郎も緊張しながらスタートライン手前にスタンバイした。 各組の第一走者がずらりと横に並ぶ。 「位置について、よーい」 定型句のセリフと短い発砲音。 それと同時に地面を蹴りだす第一走者達。 耳には割れんばかりの歓声が聞こえてくる。 「なんだ、笹木緊張してんのか?」 壮一郎の様子を見て、前に立っていたクラスメイトが声をかけてきた。 このリレーの第五走者で、サッカー部のエースでもある橘だ。 「大丈夫だって、俺が一番でバトンを繋いでやるからよ!」 まぶしいくらいの笑顔でそう豪語する橘。アンカーはこいつのが適役じゃないか?壮一郎はそう思わずにはいられなかった。
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