扉の向こう

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  「……ぁき……うお……げきだ……」 誰かが少年の世界を揺り動かす 「仙崎軍曹起きろ!出撃だ!部下を統率しろ!」 微睡んだ意識を切り裂くように、耳元で男性の野太い声が破裂する 一瞬にして覚醒した意識をよりはっきりとさせたのは、背中を襲った金属の堅い感触 「まったく、貴様というやつは。確かに待機命令は出したがヘリの中で眠りこけているとはな」 「あ…おはようございます村田少尉。すみません、すぐに準備します」 頭上から降りかかる声が直属の上司である村田小隊長の物であることが分かると、目ヤニのついた目をこすり、急いで上体を起こす その時になって、初めて自らの置かれている状況を理解する どうやら、数時間前に出された待機命令にのっとり、彼がよくお世話になるヘリの中で時間を持て余しているうちに睡魔に負けてしまったらしい 誇りくさい機内の空気から逃げるようにヘリから飛び降り、あきれ顔で立ち尽くす村田の隣に並ぶ 周囲に目をやると、そこは見慣れた空軍基地の滑走路の一部 広大なスペースに戦闘機部隊や彼らを含めたいくつかの地上部隊が駐屯する日本皇国軍有数の基地 そんな大規模な施設全体が猛烈な活気に包まれ、完全武装の兵士や整備兵たちが飛行場を右往左往している 「準備はいい。そんなことだろうと思って彼女に頼んでおいた」 村田がやれやれといった表情のまま指さす方向 そこには、二人分の装備品を足元に置き、いかにもご機嫌ななめといった少女が立っていた
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