1.恭司の変化

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『栄底府傘浜市役所付近で爆発があったと、  市役所から連絡を受けた消防が周囲を確かめたところ、  裏手にある路地の中央付近に何かが燃やされたと思われる焦げ跡を発見しました。  それ以外、現場には何も残されておらず…』  恭司はテレビのニュースを見ながら、ひとつあくびをした。  ―― 眠いなぁ、もう6時かぁー… ――  恭司はいつも午後7時に寝てしまう。  宿題を残り一時間でやらないと、先生にしかられてしまうことになるのだ。  ―― 算数、きらいなんだよな。     数字を見てるだけイヤんなってくるよぉー… ――  などと思いながらも、恭司はテレビを消し、重い腰を上げて、  勉強机の前に座った。  恭司は11才、傘浜市立の小学校に通っている五年生だ。  好きな教科は、国語と社会、それに体育。  きらいな教科は、算数と図工だ。  恭司は、今時の子供らしくないほどの短髪だ。  ―― うっとうしいじゃん ――  という理由で散髪屋に行ったら、必ず5ミリのバリカンで刈ってもらっている。  スポーツも、野球が好きだったので、少年野球クラブに入っていたが、  夏休みになる前にやめてしまった。  理由は規則正しくない時間の寝起きができないからだ。  恭司は、午後7時に寝て午前7時に起きる。  起きている時間は、朝の7時から、と限定されてしまう。  夏休みは練習時間が朝の6時からだったので起きられるはずもなかった。  恭司はこの野球クラブに入ってすぐ、レギュラーに抜擢されていた。  元々スポーツは得意だった。  恭司の子供らしからぬ身体の動きをを見て、  チームの監督はいつもいつもごきげんだった。 『ここからプロ野球選手が出るぞ!』  などと、期待してたのだろうか。  特に隠しておくことでもなかったので、  恭司が父親といっしょに監督に野球をやめる理由を聞いてもらった。  監督は信じられないという顔をしたが、  この親子の真剣な顔を見て納得した。  それから監督は、きげんが悪い日が多いそうだ。
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