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目が覚めると、決して寝心地がよいとはいえないせんべい布団に寝かされていた。
目線だけを動かし見渡すと、建物の中だとわかる。余分なものは一切置いていない殺風景な部屋。みえるのは寝ている布団と色あせた屏風だけだ。
ふと廊下のきしむ音がして、そちらに目を向ける。視界に入るのは屏風だけで、ほかはなにもみえはしないけれど。
入ってきたのは意外にも若い男だった。こちらをみやると人のよさそうな笑みで腰を下ろした。いやにうつくしい姿勢の男だ。
「気ぃつかはりましたね」
藍色の着流し。それに下ろされた髪は肩下まで伸び、それを邪魔に思うわけでもないのか、毛先のみをゆるく結わえていた。
暗い色を好むのかと思いきや、結わえている髪紐は朱色で珠まで飾られ、それだけみると女子のようだ。
男はこちらへ手を伸ばす。前髪をていねいに退け、額からこめかみへ、こめかみからほほへ、ほほから首筋へと指先をすべらせる。そこに下心もなにも感じられず、すなおにそれを受け入れた。
いま一度ほほへと手のひらをすべらせると、そのまま前のめりになり瞳を覗き込んできた。
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