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これからどうすればよいのか、どうするべきか。まずは壬生狼とかいうところに行ってみるか。いや、危険なのだろう──考えは一向にまとまらない。
細く長いため息がもれる。ゆっくりと起き上がってみると、布団に隠れていただけでいまはすっかりはだけてしまった男のものらしい古い浴衣。触れると小さくゆれて主張する“それ”。──なぜかそれがついていることに違和をおぼえた。
起き上がっていたためか、障子の向こうに人かげがみえた。先ほどの男より細い。女だろうか。
「起きてはりますか?」
「え、ええ」
音もなく両手で障子を開けた女は一度ていねいに頭を下げ、盆を持って部屋に入ってきた。
盆には湯のみと急須、粥らしきものも乗せてあり、よくみると白い包みもみえる。
湯のみに半分ほど入れられたぬるい茶で苦い薬を流し込み、粥を口に運ぶ。それがやけにおいしく感じられて、思わず気の抜けた息をもらしてしまった。
女は何度かおどろいたように瞬きすると、着物で口もとを隠しながら小さく声を上げて笑う。無意識に顔を上げていたのだろう。女はちらりとこちらを伺うと目もとをやさしげに細めた。
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