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京の町では壬生狼はあまり好意的にみられてはいないらしい。でる前にむりやり男に笠をかぶらされた。
まるで漫歩するように町を愛でながら歩みを進める。その傍ら男が話す言葉に耳を傾けていた。
どうやら五日ほど前、壬生狼の隊士数人が医者である男のもとを訪ねてきたらしい。彼らは、巡察の時間になっても見当たらないので探しているという。そのときはここにはいなかったらしい。それから二日後、診察にこれない老婆のもとへ行った帰り際、倒れているのをみつけたので連れて帰った。ということだ。
それまでどこにいたかはわからないし、いまは記憶が混乱しているようだと男は眉を下げてほほえむ。
壬生浪士組屯所。そう書かれた邸に着くと、入口に立っていた男ふたりがこちらへ駆けてきた。
「沖田助勤、ご無事でしたか!」
「あ、いや……」
「すぐ副長たちに報告を」
彼らの勢いになにもいえぬままひとりは奥へと走り去っていく。
面倒をかけた男と女に気がついたもうひとりは深々と頭を下げ、入口へと誘導する。
いくつかの草履の音が重なり奥をみやると、門番とは別に三人の男の姿がみえた。
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