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黒い色の空から大粒の涙が地面に叩きつけられる。ザーザーと耳を刺激し、冷たい雨水で肌を不快に誘う。地に落ちた水滴はそれぞれで集まり、小さな哀しい泉を 夥しく製造する。
それに負けまいと少女が透明なビニールの脆い傘を差し、懸命に駆け抜けようとする。身にまとった黒い制服は泥水で汚く濡れた雑巾のようにぐちゃぐちゃだ。そんなことなど気にも留めず、少女は少年のところへとただアスファルトの道を蹴りつけた。途中、何度も立ち止まってはぁはぁと肩を上下させる。それでもすぐにまた脚を動かして前へと急ぐ。
やがて、少女の見慣れた風景の通りに差し掛かると、さらに脚を速め全力で疾駆 した。
すぐに目的地は見えた。全体的に白色で覆われた二階建ての一軒家、そして彼女の家のすぐ隣。
到着し、休むことなく道路に隣接する門を乱暴に開け、震える脚で中へ進む。
その時だけ急に時が止まったようだった。さっきみたいな体の節々からくる喧騒が嘘なのかと疑いたくなる。
そして、
ゆっくりと進む。
ピンポーン
何とかインターフォンに指を押し込んだ。
目的は果たしたと言わんばかりに、全身がようやく悲鳴を上げ始めた。だらりと力なく腕は下がり、膝に手をつく。血でも吐き出すんじゃないかと、少女自身でも思うほど荒く、苦しい呼吸だった。ぼろぼろの傘など手から離され、すでにその存在は無いに等しかった。
10分ほどで目的の彼は出てきた。いや、実際は10秒だったかもしれない 。それほど今の少女は朦朧としていて倒れそうだった。
―――湊
少女の幼い身体は小さくて消えてしまいそうな声で言の葉を零した。
―――香乃か
対する少年も同じくらい小さくて死んでしまいそうなほど弱くなっていた。つい 先週まではあんなに男の子らしく笑っていたのに。
―――何か用か?
今度は冷たさも帯びていた。
―――お葬式に来なかったから・・・私、心配で
―――俺に葬式なんて行く権利なんてないだろ
すでに彼から表情は意味を失い、ただ変わらない人形のような「顔」があるだけだった。悲しみに歪むこともなかった。そんな少年に少女は言葉を失った。
すると今度は少年の方から急に口を開けた。
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