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―――お前はさ、あれは何がいけなかったんだと思う?
虚ろに遠い目をしていた少年が初めて彼女の目を見て、問うた。少女の心にしばしの沈黙が訪れ、すぐに消え去る。
―――わからないよ
そう答えた。そうとしか答えられなかった。
―――あのとき、買い物に行こうって言ったのは俺だ
少年は静かに呟いた。
―――え?
いきなりの言葉に少女も固まった。
そして静かに告げる。
―――姉貴誘ったのも俺だ
―――やめて
静かに沈む。
―――あの橋見に行こうとか言い出したのも俺
―――やめてよ!
―――姉貴が庇ったのも、俺なんだよ
一瞬で時が止まる。少女はそんな感覚に陥った。息が吸い込めなかった。今の少 年の眼はやり様のない憎悪と悲しみで溺れているようだった。
―――違う!湊は悪くない!
彼女は声を絞り上げた。
―――じゃあ、じゃあ誰が悪いんだ!!
届かない。
届くはずがなかった。
次、我に返ったときには少女はさっきとは反対の方向へ走っていた。庭を駆け、門を叩き開き、無我夢中で逃げた。
怖かった。
何もかも夢だったらどんなによかったか。
隣の自宅までの距離だったが、まるで持久走でもしているんじゃないかと思えるくらい長かった。それでも少女は走った。
悲しみの涙と苦しみの雨に頬を濡らしながら。
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