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4年後。
12月6日。
「で、結局香乃は誰が好きなの?」
「ぶふっ!?」
突然の攻撃に私は唾を吹き出してしまった。
親友、君月千明が意地悪げな笑顔で質問を投げかけた。しかしそれはたった今、 青春の真っただ中を生きている私、森野木香乃にとってかなりのキツい質問だ。
「・・・いない」
「嘘だ、いるでしょ。顔赤いもん!」
微々たる私の抵抗も嬉しそうに笑う親友にはまるで通用しない。いないという方向で誤魔化すことは出来ないようだ。
「絶対いや、教えない」
「えー、いいじゃん教えて!」
私も曲がりなりにも高校生だ。当然、好きな人くらいいるに決まっている。
けど、もちろん教えない。教えるはずがない。なぜならここにいる私の親友は口が軽く、誰彼構わずに言いふらし、昨日教えたことが二日で学年全域に広がってい くスピードだ。そんな千明に言いふらすなどという自爆行為はごめんだ。
「なんで教えてくんないの、ひどいよ~!」
隣の親友もとい危険人物の千明は頬を膨らまし、小さな子供のように駄々をこねる。
「そんなの自分の胸に訊いてよ。思い当たる節がないはずないから」
私は少し怒ったようにつんと言い放った。すると彼女は本当に自分の胸に掌を置 いて「んー、わかんない」と、呑気に呟いた。
千明とは中学からの付き合いだが、天然でお馬鹿の千明は昔から少々浮き気味だ 。それでもムードメーカーな彼女はある意味学年でも人気があるので本人はまったく自覚がないし自省もない。天然もここまでくるとメーワクだ。
「あっ!自販機めっけ!ジュース買ってこーよ!香乃」
「うん、いいよ」
でも、千明の無邪気なところが私は好きだった。それでもって彼女の無尽蔵な行動力に憧れた。だからこそこうしていつも一緒にいるのかもしれない。そこのところは私自身よくわからなくてうまく言葉で表せないけど、とにかく千明といるととても楽しかった。
目の前で短い髪を北風で躍らせながら、財布から小銭を漁っている親友を眺める。そして彼女はなんとか10円玉のみで120円分を挿入し終えると、迷わず冷たい炭酸飲料のボタンを押した。
ピッ、ガコンッ
乾いた音と一緒に350ミリリットルの缶ジュースが現れる。
「冬でもコーラってさすがに寒いでしょ?」
「いいんだよ、ウチはこれが一番好きだし」
すぐにプシュッと蓋を開けて口をつけた。
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