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そういえば千明がコーラ以外を自販機で買っているところを見たことないな、そう思い返しながら私も小銭を自販機に挿し込んだ。
ピッ、ガコンッ
「ココアにするんだ、でもこの時期ってココアは暑くない?」
後ろで不思議そうに尋ねる声が聞こえる。
いや、温まるから買うんだよと思わずツッコミたくなるが、正直慣れてしまって 今のはなんなくスルーした。代謝が良すぎてどんなに食べても太らない千明はきっと年中夏のような感じなのだろう。そういえば中学のころに一度だけ冬に夏服で登校してきて注意されていたことがあったような………。
気がつけば私が缶の蓋を開ける前に千明がゴミ箱に空き缶を投げ入れていた。指先から離れた空き缶は狭い穴の中に綺麗に吸い込まれていく。よくそこまでうまいこと投げられるものだと感心してしまう。っていうか飲むの早過ぎ。
缶のプルタブをプシュッ、と開けて一口分を喉に流し込む。
「ふう」
ココアの温かさで身体の内側から癒される。この時期はこれだからココアを外すことは出来ないのだ。
カラスのカアッカアッという鳴き声がした。何気なしにそっと見上げてみる。
空は橙色の絵の具で綺麗に塗られている絵画のような幻想的で儚い光景が広がっていた。平和な午後のひと時もなかなかいいものだ。世間では事故や事件がいろいろあるが、なんだかんだでこういう平和が一番幸せなのだろう。
私は大きく深呼吸をして冬の冷たい空気を吸い込んだ。
「けほっけほっ!?」
「何咽てんの、香乃」
「な、なんでもないよ」
ふと、後ろから足音が近づいてきた。反射的に缶を口元に運んでいた手を下げ、振り返る。そこには見知った顔があったからさらに驚いた。
170cmは余裕で超える身長に凛々しくも飾り気のない無表情、何を読んでいるのかは知らないけど片手に紙のカバーをした文庫本を持って、落ち着いた足取りで歩いていてくる。同じクラスの雨宮湊だ。
「こ、こんにちわ、雨宮」
思い切って呼んでみるも、本人は「おうっ」とだけ生返事を返し、意識は手に持った本に向いたままだった。そしてそのまま私を通り過ぎ、歩いていってしまった 。
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