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それから近所の中学校の前で千明と別れ、それぞれ帰路に着いた。会話もなんだかんだでいつも通り盛り上がり、別れるのがほんの少しだけ寂しい気がした。
それもいつものことだ。ウサギは構ってくれないと死んでしまうと聞いたことがある。後からそれは迷信だと教えてもらったが、私は独りになったら本当に死んでしまうかもしれない。すでに友人関係に失敗して友達少なだから余計に心配だ。
昔から他人への耐性が皆無だった私、今は初対面の人でも少しはまともな会話ができるようになったが、中学一年くらいのころはもっと酷かった。自己紹介で「わ、わ、わわたしぃは・・・えーと」となんて感じで噛みまくり、最後には頭が真っ白になって、自分の名前をド忘れてクラス中が大爆笑という恥態まで晒してしまった。
まぁ、結果としてそのお蔭で千明と友達になれたからいいもの。とにかくあれは 一生引きずる黒歴史になるだろう。
「はぁ」
そうして私は短くため息をついた。
どちらにしろ、雨宮に話しかける数は減ったと思う。いや、今年はメールのやりとりくらいで、実際に話しかけたのはあれが初めてかもしれない。メールでも明日の授業で何が必要だとか、宿題はなんだとかを私が訊いているだけで、別に楽しくやりとりしてるわけではない。正直、こっちから話しかけれない。彼のことを知っているから余計にだった。
目の前の空は暗い私を表したように向こうのほうが黒くなっていた。さっきまで綺麗なオレンジだったのに、今夜は雨だろうか?
「はぁ、―――私ってホントダメだな」
「どうした、そんなに暗くなって」
「それがね、私ってば…」
ふと一瞬、疑問点が脳裏を過ぎった。
私は今、誰と話してるんだろうか?
そう思 って振り返るとそこには大きなカーキのコートに身を包んだ雨宮が立っていた。
「って、雨宮ぁ!?」
「うるさいな、そう騒ぐなよ」
急な展開で慌てる私に対して、彼はあくまで冷静に言い放った。
「うっ、ごめんなさい」
何か言い返すことが出来ず、しょぼんと謝る。
「…すまん、少し冷たかったな」と彼も謝る。
そこからしばしの沈黙が舞い降りた。彼は私を見たまま止まり、私も気まずくて何も言えないままだった。とりあえず何か言おう、と言葉を探す。
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