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「…こ、これからどこ行くの?」
「本屋」
「あ、新しい本買いに?」
「そうなるな」
「………」
そして、私は力尽きた。そりゃ、質問しても単発でしか返ってこないんだもん、 どう派生していけというんだ。
「何だ、どうした?さっきから黙ったままで」
そっちがちゃんと返してくれないからでしょ、とツッコミを入れそうになる。
「…ご、ごめん」
やはり、昔は言えたそんな親近感のある言葉も今は喉で止まってしまう。情けなくてため息が代わりに喉から飛び出しそうだ。
「…せっかくだからお前も来い」
「え?」
「何か言いたそうだけど言い難い、言い辛いって感じなんだろう?帰るまでにまと めておけ。俺はゆっくりと本探すから」
「う、うん」
意外な言葉に一瞬たじろいでしまった。
きっと私はわかりやすいほど暗い表情しているのだろう。そう言う彼はいつも通 り無表情だ。いや、表情のバリエーションなど彼にはない。そう、4年前からずっと―――彼は色のない空ろな瞳で眉一つ動かさない、そんな機械みたいなニンゲンになってしまった。(顔立ちのせいか、何故か凛々しい感じで渋いと興味を寄せる女生徒が若干名いるらしいけど)
実際、クラスでも浮いた存在になっている雨宮。私も友達とかの横の関係は苦手だが、彼はすでにそれに興味すら持たないようであった。幼馴染みという私にだって、昔は名前で呼び合っていたのに気がつけばお互いを他人のように苗字で呼び合 っている。
雨宮は私にとって好きな人だ。だがそれ以前に彼は気まずい存在になってしまっていたのだった。
早く行くぞと雨宮が私がさっきまで歩いていた道を機械的に足を進める。そして 私は彼の言われるがまま彼の後ろについて歩くのだった。
さらに日が沈み、雲の隙間から見える空の色が少しのオレンジ色と藍色を混ぜたような不思議な模様をしていた。彼と向かったのはデパートのすぐ向かい側にある少し大きめの本屋、 その後ろ側にひっそりと店を構える古本屋だった。そのわりには、こんな時間だというのに駐輪場に中学生と思われる飾り気のないシルバーの自転車が何台もところ狭しと置いてあった。後から帰りにせまいなと不機嫌そうに愚痴る中学生が目に浮 かぶ。
本屋の前に着くと少し立ち止まった私。
彼も急に止まった私に気づいて振り返った。
「どうした?」
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