清掃員

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 かつて東側某国で開発され、四半世紀もの長期間に渡って各地の戦線で猛威を振るった「強化兵」の技術が、講和条約締結後の相互技術交換でこの国に引き渡されて、三年の月日が経った。  「強化兵」の技術とは、かつてこの国が兵士の脳内に痛覚不能化のマイクロチップを埋め込むことで、痛みを感じない「cold‐hearted soldier(冷淡な兵士」)を造り出そうとしたのとは全く異なる技術を用いたものだ。その技術は、兵士の身体の一部を丸ごと「換装」した。一般的な医療技術の一つである人口多能性幹細胞の技術を軍事用に転・応用し、兵士自身の体表細胞から、驚異的な伸縮能力を誇る横紋筋を作成したのだ。初期段階では、それを骨格筋化し直接兵士の筋肉と「換装」する手法を用いていたのだが、激しい運動に対応できない生身の骨格が破損してしまうトラブルが相次いだ。そのため、現在ではカーボンファイバー製の人工骨格に、それらの横紋筋にニューロチップの諸神経を埋め込んだものを装着した「完成品」を、目的部位と丸ごと交換する「人体換装法」が主流となっていた。ES細胞のように受精卵を必要としないため、クローン技術を規制する法律には抵触せず、また「cold‐hearted soldier」の時のような倫理的な非難も無い。国防省はこの技術を正式に採用することを決定し、近い将来の東西協同防衛を目標に開発を急いでいた。
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