清掃員

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「ここで問題になるのが、元の体とオサラバしたパーツの行方だ。」 頭上を轟々と自動車が駆け抜けて行く薄暗い路地を歩きつつ、大柄な男は周囲を確認し、低い声で言った。 「政府は専用の高温焼却炉を作って灰にする予定だったらしいが、教会から猛抗議を食らった。そこで、民間の遺体処理業者に委任したんだ。お前もこれくらい知ってるだろ、新米。」 「ああ、まあ。」 金髪の男は頷いたが、同時に周囲の様子を気にかけていた。 「この間ワイドショーで見たよ。その業者が、死体を焼くときに必要な…なんとかって税金をちょろまかしていたんだ。」 「衛生環境税だ。」 「そう、それだよ。」 若い男は、頭上に幾重にも重なったハイウェイの樹冠を見上げ、思い出しつつ言った。 「それで、その業者は操業停止になったんだ。でもそこから先は知らない。あんた、そもそも何でコレがソレだと思うんだよ。」 その質問に、中年の男は不快そうに鼻を鳴らして答えた。 「この街がそういう街だからだ。お前、知らなかったのか。」 「いや、噂には聞いていたけど…」 中年は再度、今度は皮肉めいた調子で小さく息を吐き、苦々しげに金髪が持つ黒い袋を一瞥した。 「遺体処理業者が業務を停止した後も、政府は『強化兵』の研究をやめていない。公式には今は理論開発のみ、って事になっているが、東の奴らが軍縮を渋ってるのに、そんな悠長なことは言ってられん。どこかに廃棄しているはずだ。消えても誰にも気づかれんような誰かの体を、どこかに。」 「だったら、おい…」 若者は、急に何かに気づいた様子で立ち止まった。 「もしそいつらがコレが無くなっていることに気付いていたら、今頃血まなこで探し回っているんじゃ…」 「それどころか、ポリ公に見付かりゃ、俺達ただじゃ済まないだろうな。だが、まあそうかもしれん、というだけの話だ。」 男は太い声で唸るように言い、大きく溜息を吐いた。若い男はあからさまに恐怖の念を顔に出し、唇を青くして息を飲む。幽霊でも見るかのような恐怖の色を帯びた瞳が、後悔の念を色濃く映し出していた。こんなもの、拾ってこなけりゃよかった、と。 「だからいつも言ってるんだ。」 ごつい男は、足のすくんだ痩身の若者に呆れた様子で声をかけた。 「面倒事に首を突っ込むな。それがこの街で長生きするコツだぜ、新米。」
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